作家である佳子の元に届いたのは一通の奇妙な手紙だった。
それは一人の椅子職人によるものであり、奇妙奇天烈な告白であった。
彼は醜い容貌を持つ椅子職人であり、腕前は一流ではあるものの、人に愛されずに生きてきた。
自分が丹精込めて作り上げた椅子を手放したくない、
出来ることなら、その椅子と一緒に、どこまでもついて行きたい――
そんな単純な願いはいつしか妄想と共に昇華して、己の身体を出来上がった椅子の中に入れ、
その椅子の一部となることに行き付いたのであった......
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)
日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県生まれ。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーに由来する。数々の職業遍歴を経て作家デビューを果たす。本格的な推理小説と並行して『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説なども多数手がける。代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』など。1954年には乱歩の寄付を基金として、後進の推理小説作家育成のための「江戸川乱歩賞」が創設された。